電子回路になくてはならない小さな部品「チップ抵抗」
こんな小さな部品でも故障してしまうと、電子回路全体が機能しなくなり、機器が動かなくなってしまいます。
チップ抵抗の信頼性(故障しないこと)はとても大切です。
チップ抵抗の故障は硫化故障が有名ですが、硫化故障以外にもさまざまな故障があります。
この記事では、硫化故障以外のチップ抵抗で
よく起こる故障を原理まで
わかりやすく解説するよ。
・新人の技術者
・技術者として成長したい方
・技術知識に興味がある方
・チップ抵抗の故障で困っている方
トリミング溝に関わる故障モード(抵抗値低下)
チップ抵抗の抵抗値を決めている肝(きも)はトリミング溝です。
トリミング溝に異常があると簡単に抵抗値異常になります。
経年で抵抗値が規格値を外れてしまう場合、
まず、チップ抵抗の外観を観察しましょう。
外観に異常が認められない場合には、
チップ抵抗の内部に異常があるのですが、トリミング溝の異常を疑うべきです。
それでは、トリミング溝に関わる不具合モードを2つ解説するね。
①トリミング溝に空孔(製造不良)
正しく製造されたチップ抵抗のトリミング溝にはコート樹脂と呼ばれる樹脂で埋まっています。
しかし、コート樹脂の塗布工程がマズイ場合、トリミング溝にコート樹脂が埋まらず空孔が残った状態になることがあります。
トリミング溝に空孔があると、高湿環境でチップ抵抗が吸湿すると、トリミング溝の空孔内に水が溜まります。
トリミング溝に導電性の水が溜まることで抵抗値が低下してしまいます。
このようなトリミング溝の空孔に溜まった水によって、
抵抗値が低下する故障モードの場合、
抵抗値が低下したり正常に戻ったりと安定しないことが特徴です。
抵抗値が安定しない理由は、環境の温湿度環境によって、トリミング溝の空孔に水が溜まったり、乾燥して水が無くなったりすることが原因です。
トリミング溝はチップ抵抗の肝なんだよ。
外観に異常が無くて、抵抗値に異常がある場合はトリミング溝の異常を疑った方が良いよ
トリミング溝に空孔があるかどうかを判断する方法
非破壊で調査する方法としては、X線CTが有効です。
ただし、用いるX線CTの型式や調査するチップ抵抗のサイズによってはX線CTでは空孔が確認できない場合があります。
そのような場合は、破壊調査になります。
破壊調査の方法としては、チップ抵抗の印字面から少しづつ研磨する方法が有効です。
ただし、研磨には技量が求められますので、不安がある場合は、代わりのチップ抵抗を使って練習することをお勧めします。
②トリミング後の洗浄不足(製造不良)
トリミングは導電物質の抵抗体をレーザーで削って溝をつくり、抵抗値の調節をしていますが、物理的に削るので、どうしても抵抗体の屑がトリミング溝に残ってしまいます。
導電物質の屑がトリミング溝に残っていると、経年によるコート樹脂が吸湿するなどにより抵抗値が低下する場合があります。
このため、チップ抵抗メーカではトリミング加工後にトリミング溝を洗浄していますが、この洗浄に不備がある場合には不具合になってしまう事例があります。
トリミング後の洗浄不良かどうかを判断する方法
トリミング溝を蛍光X線やEDXなどで元素分析を行い、抵抗体の主成分であるRu(ルテニウム)が検出すれば、洗浄不良の可能性が濃厚です。
最後にトリミング溝以外の
よく起こる故障モードを1つ紹介するね
エレクトロケミカルマイグレーション(イオンマイグレーション)
チップ抵抗の絶縁物(基板)の表面にイオン化した金属が少しづつ析出し短絡故障する不具合現象です。
エレクトロケミカルマイグレーションは金属の種類によって起こり易さが異なります。
チップ抵抗に使われている金属の中で最もエレクトロケミカルマイグレーションが起こりやすい金属は銀Agです。
内部電極があるチップ抵抗内部に塩分などのイオン性物質と水分が付着した状態でチップ抵抗に通電することで起こります。
エレクトロケミカルマイグレーション発生の原理
エレクトロケミカルマイグレーションが起こるためには次の3つの条件が揃う必要があります。
1)金属(チップ抵抗の場合は銀(内部電極)もしくは錫(外部電極の半田)
2)水分(湿気)
3)電界
チップ抵抗を水分(湿度)が多い環境で使用すると、チップ抵抗の表面には極薄い水膜の結露水が付着します。
チップ抵抗が水で覆われることで外部電極の半田(主成分はSn(すず))金属がイオン化します。
Snがイオン化した状態でチップ抵抗に通電するとチップ抵抗両端の外部電極間に電位差(電界)が加わり、プラス側の外部電極周りに存在しているSnイオンがマイナス側の外部電極に移動し、再びマイナス側の外部電極でSn金属として生成されます。
そして、マイナス側の外部電極で生成されたSn金属が少しづつ成長しながらプラス側の外部電極に近づき、最終的にSn金属はプラス側の電極に到達し短絡経路になってしまいます。
半田マイグレーションができる箇所
事例として多いのが、チップ抵抗の側面や裏面です。
特に裏面はチップ抵抗がプリント基板に実装された状態では外観観察を行うことができないので発見が難しい箇所です。
しかし、マイグレーション発生の必須条件である水(結露)が最も生じやすい箇所が裏面であることから、最もマイグレーションの発生確率が高い箇所でもあります。
マイグレーションによる半田(Sn)のショートパスは非常に細く切れやすいことから、裏面を確認しようと高温の半田こてでチップ抵抗をプリント基板から外すようなことは避けなければなりません。
裏面を観察するためにチップ抵抗を取り外す方法は、熱ストレスは加えず機械的(ニッパーやカッターナイフ)で取り外すようにしましょう。
半田マイグレーションをチェックするのに適した道具
チップ抵抗に半田マイグレーションはチップ抵抗の表面、側面、裏面を顕微鏡などで拡大し注意深く観察する必要があります。
昔は顕微鏡はとても高額でしたが、
今は安くて質の高い顕微鏡が多く販売されています。
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