チップ抵抗の硫化故障とは? 分かりやすく解説しました

電子回路になくてはならない小さな部品『チップ抵抗』

こんな小さな部品でも故障してしまうと、電子回路が正常に機能しなくなり、電子回路で制御している機器も使えなくなってしまう場合もあり、小さな部品だからと侮るなかれ。

走る園児
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今回はチップ抵抗の不具合の代表でもある硫化故障の原因と対策について解説します。

チップ抵抗の硫化とは

銀のアクセサリーを使っていると黒く変色したなんて経験をされた方は多いと思います。

これは銀が硫化して硫化銀になることで黒くなっているのです。

銀は金属の中でも、とても硫化し易い金属です。

走る園児
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昔の貴族の食器は銀製が多いよ。

毒には硫黄(S)が含まれている場合が多いので、

食事に毒が入っていると

銀製の食器だと、すぐに硫化して黒く変色するので、

危険を知ることが出来るよ。

チップ抵抗にも銀が使われています。

チップ抵抗の内部には銀で出来た電極があります。(内部電極といいます)

この内部電極が硫化ガスのあると硫化することでチップ抵抗が断線故障してしまいます。

 

チップ抵抗の硫化故障とは

初期症状

チップ抵抗が硫化し始めた初期の頃は、外観や電気抵抗にも変化は無く、無症状の状態がしばらく続きます

硫化する内部電極はチップ抵抗の内部にあるので内部電極が黒く変色し始めていても、外観からは全く見ることが出来ません。

また、硫化銀は銀に比べて電気抵抗が高い(電気が流れにくい)のですが、初期の時点では内部電極の表面だけが硫化銀になっているくらいの状態なので、電気抵抗が変化することはありません。

中期症状

硫化が始まっても、しばらくの間は無症状の状態が続きますが、

その間も内部電極はどんどん硫化が進行していき、症状の現れる中期段階に入ります。

中期段階になると症状として現れてくるのが電気抵抗値の上昇です。

初期段階は表面だけが硫化銀に変化していたのですが、中期段階になるとより深くまで銀が硫化銀に変化するので、電気抵抗の上昇として確認できるようになります。

この中期段階の電気抵抗の上昇はチップ抵抗の抵抗値によって、より早く表れるものとそうでないものに分かれます。

特に早く電気抵抗の上昇が顕在化するのは、0(ゼロ)Ω(オーム)ジャンパー抵抗です。

0Ωジャンパー抵抗は元の抵抗値が0Ωなので、ちょっとでも硫化が進むと電気抵抗の上昇がわかり易いことが理由です。

対して、抵抗値の大きいチップ抵抗はよほど硫化が進行しないと電気抵抗の上昇は分かりにくいのです。

末期症状

中期症状が現れてからも更に硫化が進行すると、外観でもわかる症状が現れます。

外部電極と保護膜の境界に黒い吹き出物がモコモコと出てきます。(写真の赤丸部)

 

 

この黒い析出物は硫化銀です。

内部電極の銀が硫化して硫化銀になったものが噴出してくるのです。

このような硫化銀の吹き出しが外観でわかるようになれば、チップ抵抗の硫化は末期症状です。

電気抵抗値も微妙な上昇では済まずに大幅に上昇している場合が多いです。

そして、最終的には完全に断線(内部電極が切れてしまう)してしまいます。

チップ抵抗硫化の最終故障状態は断線(オープン)故障です。

 

チップ抵抗硫化のメカニズム

チップ抵抗の抵抗値が高くなっていたり、断線している場合には、保護膜と外部電極の境界をじっくりと観察してみてください。

もし、境界に黒い異物がある場合は硫化故障している可能性が高いです。

この境界にある黒い異物は硫化銀です。

硫化銀はチップ抵抗内部にある内部電極の銀と環境中の硫黄とが反応して生成されたものです。

内部電極の銀と硫黄が反応するに伴い、徐々に内部電極の銀が消費され、内部電極が細ることで抵抗値の増加が生じます。

そして、さらに内部電極の銀が消費されることで、吹き出す硫化銀は大きくなり、内部電極は消費され尽くされ消失し断線に至ります。

これがチップ抵抗の硫化により抵抗増から断線になるメカニズムです。

硫化しやすい環境

硫化とは硫黄と金属が化合することをいい、硫黄が含まれたガスが多い環境で起こります。

硫黄が含まれたガスがある環境は自然由来の環境だけでなく人工的な環境などいろいろとあります。

走る園児
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代表的な硫化しやすい環境を紹介します。

温泉地

温泉地にいくとゆで卵の腐った臭いのような温泉臭がしますが、この温泉臭の正体は硫化水素ガスです。

硫化水素は銀に対して強い硫化作用があります。

銀製の指輪やネックレスを身に着けたまま温泉に入ると、温泉から出る硫化水素と銀が反応(硫化)して黒く変色する経験をされた方も多いと思います。

温泉に入らなくても温泉地は硫化水素の濃度が高いのでチップ抵抗には厳しい環境なのです。

ゴムが多い場所

→タイヤなどのゴム製品を多く置いていると場所や少量でも電子回路の近くにゴムがある場合は要注意です。

タイヤをはじめゴムは弾力がありますが、単なるゴムには弾力がありません。

ゴムは硫黄を加え混錬し加熱することで初めて弾力が生まれます。

つまり、ゴムには硫黄が大量に含まれいるのでゴムからは硫黄ガスが出ており、ゴムの近くは硫化しやすい環境です。

チップ抵抗が短期間に硫化故障した場合、近くにゴム部品があることが結構多いです。

段ボールや紙類

段ボールや紙はパルプから作られており、パルプは木材から作られています。

木材をパルプに加工する過程において、硫黄化合(硫化ナトリウム、亜硫酸ナトリウム)を多量に用いるので、紙や段ボールには硫黄が残留しています。

この残留した硫黄は段ボールや紙からは徐々にガス化して排出されているのです。

この硫黄ガスは新しい紙ほど多く排出され、経年により少しずつ排出量は少なくなっていきます。

走る園児
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新しい段ボール箱は高濃度の硫黄ガスが溜まりやすいので銀製品を保管しないようにしましょう。

アメリカ、カナダ、インドネシアなどの国は、古紙回収して段ボールを製造するよりも、新たに木を伐採して段ボール使った方が安価になるので、古紙回収機構が整備されていないこれらの国で製造された段ボール箱を使うときは特に注意が必要です。

中国は古紙を輸入して段ボールを製造しているので日本の段ボールと同程度の硫黄ガスと思われます。

羊毛、毛髪

ドライヤーで髪を乾かしているときに、抜けた髪がドライヤーのヒータに付いて髪が焦げることがありますが、その時のひどく臭いにおいがするのを経験された方も多いと思います。

髪の毛を燃やすと臭い理由は、髪に硫黄が多く含まれているからです。

生物の髪や爪、皮膚はケラチンといわれる硫黄を含んだタンパク質で構成されています。

ウールのセータは羊毛でできていますので、多く硫黄が含まれていますので、羊毛のセータと銀のアクセサリーを一緒に保管していると銀のアクセサリーが硫化して黒く変色してしまう場合があります。

対策

チップ抵抗の硫化故障について解説しました。

身の回りの便利な電子機器にはほぼ間違いなくチップ抵抗が使われています。

とても小さなシンプルな部品ですが、これが壊れると電子機器本体も故障に至る重要な部品です。

チップ抵抗は硫黄ガス(主に硫化水素)に弱く、硫化ガスが多い環境でチップ抵抗が使われている電子機器は使わないことが一般ユーザーが唯一できる対策ですが、エンジニアは硫化ガスが多い環境でも簡単には硫化しないように強化する対策も選択肢にあります。

走る園児
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エンジニア向けのチップ抵抗が硫化しにくい対策を紹介します。

耐硫化チップ抵抗を使う

チップ抵抗が硫化故障し易いことはチップ抵抗メーカも認識しているので、硫化しにくいチップ抵抗(耐硫化チップ抵抗)も販売しています。

耐硫化チップ抵抗には大きく2つの種類があります。

スキマを作らないタイプ

チップ抵抗の硫化はチップ抵抗内部にある内部電極の銀に硫黄ガスが接触することで初めて硫化が起こります。

硫化ガスが内部電極(銀)まで通る道は、保護膜と外部電極(Sn、Ni)の界面が広がることで出来るスキマです。

このスキマが無ければ、硫黄ガスは内部電極(銀)に接触することは出来ないので硫化しません。

保護膜と外部電極(Sn、Ni)の界面が広がってスキマができる原理は、双方の熱膨張係数が異なるためです。

樹脂である保護膜と金属である外部電極の熱膨張係数は大きく異なるため、雰囲気温度の変化や通電による発熱によって、どうしてもスキマができてしまいます。

そこで耐硫化チップ抵抗には保護膜と外部電極の界面に双方の熱膨張係数の中間くらいの熱膨張係数の樹脂を挟んでいます。

この中間の熱膨張係数の樹脂があることでスキマができることを防止して、硫化ガスが内部電極に接触しないように工夫されているのです。

硫化しにくい内部電極材料のタイプ

内部電極は銀で作られているために硫化して硫化銀が生成されます。

このタイプの耐硫化チップ抵抗は、内部電極を硫化しにくい材料に変更しています。

具体的には銀とパラジウムの合金、または金の内部電極を使っています。

これらの耐硫化チップ抵抗は非常に強力な耐硫化チップ抵抗なので、厳しい硫化環境で電子機器を使う場合や、絶対に硫化故障が起こるとマズイ場合に選択するとよいです。

デメリットは高価な貴金属を使うので高額になってしまいます。

以上

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