恒温槽の原理(仕組み)と 4つの使用上の注意

スマートフォンや家電製品、車などは簡単に壊れては困りますよね。

これら工業製品を設計・製造しているメーカでは、製品が想定している環境や年数で壊れないように設計するだけでなく、テストも行って故障しない(信頼性が高い)ことを確認しています。

そのテストで必須の装置が恒温恒湿槽です。

筆者(走る園児)が勤務する事業所でも恒温恒湿槽を100台近く保有しており、多くの技術者が日々、恒温恒湿槽を用いて製品のテストを行っています。

恒温恒湿槽メーカの努力もあって、恒温恒湿槽の操作はとても簡単なので初めて恒温恒湿槽を使う技術者でも操作できてしまいます。

簡単に操作できてしまう反面、絶対にしてはダメなことがあります。

この絶対にしてはダメなことを知らないまま恒温恒湿槽使うと、故障させるだけでなく、設定した条件の試験が全くできていないなんて事態になってしまうのです。

今回の記事は社内の若手技術者がやってしまう絶対にしてはダメなことを紹介します。

恒温恒湿槽を使ったことが無い技術者(エンジニア)はもちろんですが、今までに恒温恒湿槽を使っていたけれども詳しくは知らない技術者にも非常に有益な記事です。

走る園児
走る園児

5分程度で読めます。

是非、最後まで読んでくださいね。

恒温恒湿槽とは

恒温槽  <出展;ESPEC(株)HP>

さまざまな気温と湿度の環境を自由に作り出すことが出来る装置です。

地球上のさまざまな厳しい環境を自由に再現することができるのです。

極寒の南極

高温多湿のジャングル

高温で乾燥した砂漠

恒温恒湿槽の機能(仕様)

恒温恒湿槽の機能は、メーカや型式によってさまざまです。

当記事では国内シャアNo.1の環境試験装置メーカのエスペック(株)の製品ラインナップを例にご紹介したいと思います。

温度(気温)について

恒温恒湿槽の型式によって異なりますが、設定可能な温度範囲は-70℃~180℃です。

地球上でもっとも寒い南極大陸の冬の平均気温がー20℃、反対にもっとも暑い砂漠地帯の夏の平均気温が45℃ですから、恒温恒湿槽で設定できる温度は地球上ではあり得ない温度環境まで作り出すことが出来るのです。

なぜ?そんなに過剰な温度範囲まで設定できるのか?

その答えは、恒温恒湿槽では加速試験を実施するからなのです。

加速試験とは

製品が10年間壊れないことを確認するためには、厳しい環境(温度、湿度)で10年間ずっと試験を行う必要があります。

つまり恒温恒湿槽を製品が使われる最も高い温度や低い温度、湿度に設定して10年間壊れずに機能し続けるか試験確認するのですが、10年もかかって試験をしていたのでは、製品の販売は最短でも10年後になってしまいますので、全く商売になりません。

そこで、短時間に製品の良し悪しを試験確認するニーズが生まれ、この時間を短縮して評価する試験を加速試験いいます。

加速試験の考え方は実際に想定される厳しい温度よりも更に厳しい温度で試験を行うことで、試験時間を短縮する考え方です。

恒温恒湿槽を購入する際には加速試験を実施することを想定して製品の使用温度範囲よりもさらに高低温まで設定できる恒温恒湿槽を選ぶことをおすすめします。

湿度について

湿度に関しても温恒湿槽の型式によって異なりますが、恒温恒湿槽で制御可能な最低湿度は5%Rh。最高湿度は98%Rhです。

%Rhとは相対湿度(Relative humidity)のことです。

なぜ?5%Rh以下の湿度は仕様外になっているのかというと5%Rh以下に湿度を制御することは非常に難しいことが原因です。

恒温槽内には温湿度センサー用の水(ウイック用の水)や加湿皿に水があるため、たとえ加湿器の出力がゼロであってもこれらの水が自然蒸発するため、5%Rh以下の湿度制御は仕様外となっています。

装置の仕様外ですが、以下の5点を行うことで可能な限り5%Rh以下にすることはできます。

  1. 事前に乾燥運転を行う(直前使用が温湿度運転の場合)
  2. 相対湿度の設定(湿度制御)をOFFにする
  3. 加湿水を排水する(排水設定を自動に設定または手動操作する)
  4. 冷凍機を稼働させる(除湿効果)
  5. ウイックへの給水を停止する。(0℃以上で湿度のモニターが必要な場合は給水しておく)

※ウイック:湿度を測定するための湿球温度センサー用のガーゼ

 恒温恒湿槽の原理(構造)

恒温恒湿槽は試験槽エリアと温調機器エリアで構成されています。

試料を入れて試験をするのが試験槽エリアといい

温度、湿度を作り出す機器が収まっているエリアが温調機器エリアです。

試験槽エリアと温調機器エリア以外のスペースには温調機器エリア内の機器に通電、制御するための電気機器や圧縮機などが収まっています。

恒温恒湿槽の構造

試験槽エリア・温湿度調整機器エリア

試験槽エリアの温度、湿度は温湿度調整機器エリア内の機器から発生した熱や水蒸気を試験槽エリアから空気を循環させることで設定した温湿度に制御しています。

例えば、気温を85℃、湿度85%Rhに設定した場合、温湿度調整機器エリア内のヒータが加熱、加湿水を加湿ヒータで加熱蒸発させて、試験槽エリアと温湿度調整機器エリアの空気を循環させることで温度と湿度を高めていきます。

試験槽エリアにある乾湿球温度センサーが設定温湿度にセンシングしています。

恒温恒湿槽の温湿度調節の肝は空気の循環なのです。

乾湿球温度センサーとは

恒温恒湿槽試験槽エリアの上部通気口に設置されている2対の白金抵抗体温度センサーです。

1本のセンサーは空気温度をそのまま測定(乾球)しているのに対して、

もう1本は湿ったガーゼ(ウィッグ)でセンサーを覆っています。

湿度が低い場合は湿ったガーゼの水が蒸発し易いので、水の蒸発とともに熱を奪います(気化熱)。

このように湿球は周囲の湿度に依存して温度が変化するので、同じ部屋の温度を乾球と湿球で測定しても温度が異なり、この温度差から湿度を計算で求めることが出来るのです。

このような原理で恒温恒湿槽は槽内の温度と湿度を測定しています。

絶対ダメな使い方(使用上の注意)

とても便利で製品開発には無くてはならない恒温恒湿槽ですが、絶対に注意すべき4つのポイントがあります。

①水は純水をつかうこと(水道水や超純水はダメ)
②空気の流れに配慮すること
③試料以外の高分子材料を入れないこと
④試料以外の高分子材料を入れないこと
走る園児
走る園児

これら4つの注意すべきポイントについて

くわしく解説しますね

①水は純水を使うこと(水道水、超純水はダメ)

加湿用の水に水道水を使っては絶対にダメです。

その理由は水道水にはシリカが含まれているからです。

水道水も元は雨水です。雨水は地表や地下を流れる際に土壌中の様々な成分が溶け込みます。日本は火山国であるため、火山由来の岩石の主成分であるシリカが雨水に溶け込み水道水になってもシリカが多く含まれているのです。

シリカを多く含んだ水道水を加湿用の水タンクに入れると加湿運転時で水道水が蒸発したあとには加湿ヒータの表面にシリカが残留してしまいます。これを何度も繰り返すことで加湿ヒータの表面にはシリカ層が形成されます。シリカは熱伝導性が低いため加湿ヒータの熱が水に伝わり難くなり加湿効率が下がってしまうのです。
また、水に熱が伝わらないということは反対に加湿ヒータの温度が高くなってしまうため、加湿ヒータの寿命が低下し故障のリスクが高まってしまうのです。

加湿用の水にはシリカが含まれていない純水(電気伝導率(導電率)が0.1~10μS/cm)を用いる必要があります。

また、純水の不純物をさらに取り除いた超純水(電気伝導率(導電率)が0.1μS/cm未満)を使用するのもダメです。

純水よりも更に不純物を取り除いた超純水も加湿用の水には使えません。超純水を使用すると恒温恒湿槽の水回路内の部品に使われている金属が溶け出し、最悪の場合は穴が開いて水漏れが起こるリスクが高まるためです。

②空気の流れに配慮すること

恒温恒湿槽の原で解説したように、恒温恒湿槽は空気を循環させることで槽内の温度と湿度をコントロールしているので、槽内の空気の流れが滞るように試料やマットなどを置かないようにしましょう。

空気の流れが滞ると温度や湿度のコントロールができなくなってしまいます。

この使い方の厄介なことは、恒温恒湿槽の温度センサーは1か所にしかありませんから、槽内全体の温湿度のコントロールが出来ていないことを検知することはできないので、アラームや異常表示などは発報されず使用者は全く異常な試験をしていることに最後まで気付かない可能性が高いのです。

散見される使い方としては、通電する試料を高温高湿槽に入れて試験する場合に金属製の試料台に漏電することを防ぐため、試料棚と試料の間に絶縁材のシートを置くのですが、試料棚全面を覆ってしまうような大きなシートを置いている若い技術者が多いです。

試料台を完全に覆ってしまうと槽内の空気の流れが滞りますので設定した温度、湿度に制御できていない可能性が高いです。

シートを使わない場合でも試料が大きい、または試料の数が多く試料棚を塞いでしまうようなことにならないよう試料を試料棚に並べる際には槽内の空気の流れが円滑になるよう配慮しましょう。

 

③試料以外の高分子材料(ゴム、プラスチック、木材)は入れないこと

恒温恒湿槽内には試料以外の高分子材料のものは入れないようにしましょう。

ゴムやプラスチック、木材などの高分子材料には様々な添加剤や薬剤が入っている場合が多く、気温が高くなればなるほどそれらの物質がガス化して高分子材料から排出されています。

ゴムやプラスチック、木材を手に取って嗅いでみると何か臭いがすると思います。臭いの正体がガス化した物質です。

これらのガスは温度が高いほど出易くなりますので、恒温恒湿槽では高温条件に晒されるケースが多く密閉された槽内に発生したガスの濃度が高まる可能性があります。

発生するガスの種類は様々なので試料に対する影響もさまざまですが、試料の金属部が腐食したり、接点部が絶縁されて通電不良になったりしたことが過去にありました。

正しい試験結果を得るためにも試料以外の材料(特に高分子材料)は一緒に槽内に入れないのが望ましいですね。

④試料を床に直置きしないこと

試料を恒温槽の床に置いたり壁に接触させないようにしましょう

恒温槽の壁や床は厳しい温度、湿度環境にも腐食せずに耐えられるようにステンレスで作られており、熱容量も大きいです。

温度変化を伴う条件の試験を行う場合、空気温度に比べて熱容量が大きいために温度変化が緩やかになります。

温度変化が緩やかになるということは定められた試験条件で試験を行っていないことになりますので、緩い試験を行い合否判断を誤るリスクがあります。

また、反対に異なるストレスを加えた試験になってしまう可能性もあります。槽内温度を低温から高温に変化させる場合には試料の熱容量が大きいと試料が槽内の空気温度と比較して低温になってしまい、試料に結露が生じてしてしまう問題を起こすような問題です。

このような問題を起こさないためにも試料は試料棚に風通し良く置いて温度変化がスピーディになるよう配慮が必要なのです。

走る園児
走る園児

工業製品の開発、評価に必須の恒温恒湿槽

原理や使用上の注意事項をご理解いただけたでしょうか?

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この記事を書いた人
走る園児

京都の国立大学工学部卒
22歳:東証一部上場の大手電機部品メーカに入社
29歳:開発部の管理職
35歳:東証一部上場の大手家電メーカに技術者として転職
 専門は電気、機械、金属材料、高分子材料、統計学
 学会・講演会なども活動。
 特に故障原因の解析が何よりの好物!!

ランニングが趣味の園児(エンジニア)です。

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