プラスチックは様々な材料と化学反応によって製造されているため、どうしても気化し易い残留物が含まれています。
また、プラスチックが持っていない性質を付加するため、さらに様々な配合剤を混ぜ加えられていることがほとんどであり、これらの配合剤も比較的気化し易いものが多いのです。
したがって、そのプラスチックの主成分からは考えられないようなガスが発生しています。
これらのプラスチックから発生するガスは安定化されたものは少なく、活性な状態ものが多いため、金属を腐食させたり、化学反応を起こすトラブルの原因になる場合が多いです。

プラスチックやゴムを鼻でクンクン嗅いでみてください。
もし、何か匂いを感じるようであれば確実に何かしらのガスが発生しています。
このガスが品質トラブルを誘発する原因となる場合があります
今回の記事では、アウトガスによる品質トラブルの事例が多く、特に注意が必要なプラスチックのアウトガスとその原因について解説します。
このような方にむけて記事を書きました。
- 製品設計の技術者
- 品質管理、保証の技術者
- 技術の知見が欲しい方
フェノール樹脂 <アンモニア>
製造方法の違いにより大きく分類すると2種類のフェノール樹脂が存在します。(ノボラック型、レゾール型)
アウトガスを気にする必要があるのは、ノボラック型のフェノール樹脂です。
ノボラック型のフェノール樹脂はアンモニア系の硬化剤を添加して製造されるので、どうしてもアンモニアガスが発生します。
アンモニアガスは他のプラスチックの加水分解を加速させたり、金属を腐食させたりしますので、注意が必要です。
特にノボラック型のフェノール樹脂を密閉空間で使う場合はアンモニアガスが逃げずに溜まり続けるので、予想以上に高濃度になるリスクがあるので特に注意が必要です。
エポキシ樹脂 <塩素>
エポキシ樹脂はほとんどの場合フェノール化合物とエピクロロヒドリンと呼ばれる2つの物質を反応させて作りますが、不要な大量の塩素化合物と副生成物の塩素がエポキシ樹脂に残留してしまいます。
これらの塩素化合物や塩素がエポキシ樹脂内に残留していると様々なトラブルの原因となるため、樹脂メーカではこれらを取り除く後工程を加え、できるだけ残留させないように対応していますが、完全に除去することは難しく、エポキシ樹脂は塩素を含んでいると考えておくことが重要です。
ポリフェニルサルファイド樹脂(PPS)<塩素、硫黄>
PPS樹脂は熱可塑性の樹脂であり、耐熱性・耐薬品性に優れたスーパーエンプラと呼ばれる高価なプラスチックです。
PPS樹脂は塩素(Cl)やナトリウム(Na)を使った脱塩素反応によって合成されているので、どうしても塩素(Cl)が残留してしまいます。
また、PPS樹脂の名前にS(サルファ(硫黄))とあるように硫黄が樹脂に多量に含まれている。
これらの硫黄は反応して強固に結合しているのであればアウトガスになることはないが、未反応の硫黄は動きやすいので硫黄系のアウトガスが発生することもあるので注意が必要です。
塩化ビニル樹脂(PVC)<可塑剤>
塩化ビニル樹脂は「雨どい」や「水道管」などのように硬い塩化ビニル樹脂もあれば、
「ビニールハウス」や「ビニール傘」などのように柔らかい塩化ビニルもあるように様々な製品に使われています。
硬い塩化ビニル樹脂は塩化ビニル分子のみが強固に結合して出来ている(構成されている)のに対して、
柔らかい塩化ビニルは塩化ビニル分子同士のつながりが動き易くなるように分子間に可塑剤と呼ばれる添加剤が入っています。
ビニール傘のように柔らかい塩化ビニルには可塑剤が約30~40%添加されているのですが、この可塑剤は分子量が非常に小さいために気化※1や移行※2し易いのです。
可塑剤が気化や移行により他の材料に入ることで、いろいろな不具合を誘発させます。

いくつか不具合事例を紹介しますね。
他の樹脂が割れる(ケミカルクラック、ソルベントクラック)
耐薬品性が低いS(スチレン)が含まれるABS樹脂やPS樹脂は可塑剤が入ってくることで割れが生じやすいので注意が必要です。
柔らかい塩化ビニル樹脂にABS樹脂やPS樹脂の部品を接触させたり、近接させないようにしましょう。
熱や応力が加わると加速されるのでさらに注意が必要です。
RoHS指令※3違反
可塑剤のいくつかは有害物質として、EU加盟国で販売される製品や部品などすべての材料に指定された可塑剤を添加することが禁止されています。(正確には最大許容濃度が規定されている)
製品に使用する材料には可塑剤を添加していなくても、製品の製造工程のトレーや台などの樹脂部品に添加されていた可塑剤が製品に移行してRoHS指令違反となる場合もあり、注意が必要です。
液晶ポリマー(LCP)<酢酸>
一般に芳香族ヒドロキシ酸のヒドロキシ基を無水酢酸等によってアセチル化し、加熱して脱酢酸重縮合反応で作られるので、どうしても液晶ポリマーには酢酸が残留します。
酢酸は偏光板(偏光層を2枚のTAC槽で挟んだもの)の加水分解を加速させるので要注意です。

ガスの濃度を簡単に調べるには検知管が安くて便利です。
参考までにアンモニアの検知管と必要用具セットのリンクを貼っておきます。
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