製品が故障した場合に製品が発火しないように守ってくれる安全部品 『電流ヒューズ』
電流ヒューズは色々な種類があり、どの電流ヒューズを選んだらよいのか?悩んだ経験があるのではないでしょうか?
もし、不適切な電流ヒューズを選定してしまうと、正常な電流でも電流ヒューズが切れてしまう誤作動を起こしたり、
過大な電流が流れた時でも電流ヒューズが切れない不作動なんて危険なことが起こってしまいます。
電流ヒューズは安全の要(かなめ)なので、正しく選定することがとても重要です。

電流ヒューズを正しく選定する手順を
わかりやすく解説しますね。
ヒューズの選定
① 定格電圧
ヒューズ選びの第一歩はヒューズの定格電圧を確認することから始まります。
ヒューズには使える電圧の上限が決まっています。
この電圧の上限値を定格電圧と言います。
もし、回路電圧よりも定格電圧が低いヒューズを選んでしまうと、ヒューズが破壊し火災や事故になるリスクがあり非常に危険です。
ヒューズを選ぶ際には必ず回路電圧よりも定格電圧が高くなる電流ヒューズを選びましょう。
② AC(交流)・DC(直流)どちら?
ヒューズにはAC(交流)用とDC(直流)用があります。
AC回路の場合はAC用の電流ヒューズを選びましょう。
DC回路の場合はDC用の電流ヒューズを選びましょう。
間違ってDC回路にAC用の電流ヒューズを選んでしまうと過大な電流が流れた際に電流ヒューズが切れずに最悪の場合には火災事故になる危険があります。
なぜ? AC用とDC用のヒューズを間違えるとヒューズが切れない場合があるのかについて解説します。

AC回路とDC回路では電流ヒューズの切れやすさが全く違ってくるよ。
それぞれの回路電圧とヒューズの中の状態を絵を使って解説するね。
AC回路の場合
AC回路には交流電圧が印加されているので、回路の電圧は0Vを中心に変動しています。(東日本は50Hz、西日本は60Hzで変動しています)
この回路の電圧が変動していることが電流ヒューズの切れやすさに大きく影響しています。
AC回路に過大な電流が流れた場合の電圧波形と電流波形、そして電流ヒューズの状態を下図に記しました。
まず、回路に過大な電流が流れると電流ヒューズの中央部の可溶体がジュール熱で発熱します。
発熱により可溶体の融点を超えると可溶体は溶けて液体になります。
溶けて液体になった可溶体は表面張力によって、左右の溶けていない可溶体の端部にそれぞれ球状に丸まります。
中央部の可溶体が球状に丸まった結果、中央部の可溶体が無くなり電流経路が無くなることで電流ヒューズが切れるのです。
しかし、電流もしぶとく可溶体という導体が無くなっても流れ続けようとする性質があります。
可溶体が無くなっても放電しながら通電し続けるのです。
この現象をアーク放電といい、回路電圧が高いほどアーク放電は起こりやすいのですが、反対に回路電圧が0Vになるとアーク放電は消えてしまいます。
つまり、AC回路の場合は回路電圧が変動しているため、アーク放電が起こったとしても定期的に必ず0Vになるためアーク放電が消えてしまい確実に電流を遮断することが出来るのです。
DC回路の場合
DC回路は直流電圧が印加されているので、交流電圧のような電圧変動はなくほぼ一定の電圧なので0Vになることはありません。
電圧が0Vにならないので、DC用のヒューズはAC用のヒューズよりもヒューズ自体の溶断性を高めた特別仕様にすることでアーク放電を切れるように工夫されているのです。
従って、DC回路に溶断特性が普通のAC用ヒューズを使ってしまうとアーク放電が切れずにずっと通電し続けるので回路が発火するなど事故のリスクが高まり非常に危険です。
③ 電流で選ぶ
ヒューズは「異常な電流が流れた時には確実にヒューズが切れて回路や部品が壊れないよう保護すること」と「正常な電流が流れている時にはヒューズが切れないこと」のどちらも両立させる必要があります。
これらを両立したヒューズを選ぶためには、回路の2つの電流値からヒューズを選ぶことが重要です。
1)定常電流
2)突入電流

これら2つの回路電流からヒューズを選ぶ手順や理由を説明をするね。
1)定常電流


I-Tカーブの温度ディレーティング
ヒューズが切れる原理は、通電によるジュール熱で可溶体が融点を超えることであることは理解してもらったと思います。
つまり、ヒューズの肝は可溶体の温度なのです。

ここで質問だよ。
夏と冬ではヒューズの切れ易さは違うかな?
夏と冬ではヒューズの切れ易さは違います。
その理由は夏だと周囲温度が高いので、異常電流が流れた際にヒューズはより早く融点にまで昇温することができます。
反対に、冬は周囲温度が低いので同じ異常電流が流れて昇温しても融点に到達するまで夏よりも時間が掛かってしまうのです。
つまり、周囲温度が高いほど、ヒューズは切れやすくなり、反対に周囲温度が低いとヒューズは切れ難くなるのです。
周囲温度が変わると同じヒューズのI-Tカーブがどのように変化するのか以下に例を記します。
周囲温度が高くなればなるほどI-Tカーブは下にさがっているのが分かると思います。
このような現象を「温度ディレーティング」といい、ヒューズの仕様書には以下のような直線グラフが示されています。
ヒューズの選定する際には、機器の使用環境温度範囲においてヒューズが誤作動や不作動を起こさないよう温度ディレーティングを確認することが大切です。
2)突入電流
回路に電源投入した際に回路に流れる電流と突入電流といいます。
突入電流は定常電流とは全く異なり、毎回異なる複雑で過渡的な電流波形が流れます。
突入電流は定常電流に比べて非常に短時間に生じる電流波形です。
ヒューズを選ぶ際には、この複雑で短い時間の突入電流が流れても切れないヒューズを選ぶ必要がありますが、非常に短い時間なので、定常電流の評価で使ったI-tカーブは使えません。
突入電流が流れてもヒューズが切れないか評価する際には縦軸は電流ではなくジュール積分値I^2×tを用いたI^2×tーtカーブを使います。
I^2×tーtカーブの使い方
機器の電源を入れた際の突入電流をオシロスコープを用いて測定します。
突入電流は定常電流になるまでの電流です。
機器の負荷や回路の部品などの影響で下図のような複雑な波形をしています。
ヒューズのI^2×tーtカーブで評価するための突入電流のI^2tは上図で青く塗りつぶした突入電流の面積を計算する必要があります。

突入電流の面積を計算する方法を解説するね。
①最初の突入電流の山の面積(I^2t)を求める
オシロスコープのカーソル機能を用いて、最初の山の電流実効値(I1rms)と時間t1を求めます。
そして、(I1rms)^2×t1を計算します。
②次の突入電流の山までの面積(I^2t)を求める
オシロスコープのカーソル機能を用いて、次の山までの電流実効値(I2rms)と時間t2を求めます。
そして、(I2rms)^2×t2を計算します。
③最後の山までの面積(I^2t)を求める
オシロスコープのカーソル機能を用いて、②の計算を最後の山まで行う。最後は、最後の山までの電流実効値(Inrms)と時間tnを求め、(In rms)^2×tnを計算します。
④求めた機器のI^2ーtから十分に余裕があるヒューズを選ぶ
I^2ーtカーブのグラフに求めた突入電流の最初の山のI^2×tから順に点を書き込み、点どうしを線で繋ぐ(これが機器の突入電流のI^2ーtカーブです)
この機器の突入電流のI^2ーtカーブに対して十分にマージンがあるI^2ーtカーブを持った電流ヒューズを選択する。
このマージンは多くの電流ヒューズメーカは50%を推奨しています。(電流ヒューズのI^2ーtを100%とした場合に機器の突入電流のI^2ーtが50%になるように)
このマージンのことをディレーティングと言います。
まとめ(電流ヒューズの選定手順)
② 回路電圧がDCならDC用のヒューズを選ぶ
③ 電流(定常電流、突入電流)で選ぶ

電流ヒューズの選定するためには、ヒューズの形状、サイズ、他にも作動スピードなど他にも考慮すべき点はありますが、この記事の方法が基本的な考え方です。
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